【ぶらり訪問記(お祭り編)】
千年の歴史と四世代の絆が奏でる伝統の音色

~安恒自治会獅子舞委員会~

みなさん、こんにちは!株式会社西日本楽器 和太鼓事業部の木谷慶一です。
福岡県各地の太鼓チームや伝統芸能保存会を訪ね、その熱い想いや活動の魅力をお届けする「ぶらり訪問記 お祭り編」。

今回は2026年10月1日、飯塚市安恒公民館を拠点に活動されている「安恒自治会獅子舞委員会」の練習現場へお邪魔しました!

千年の時を超えて引き継がれる熱い舞と音色の秘密に迫ります。

1. 驚きの歴史!京都・石清水八幡宮から大分八幡宮、そして安恒へ

まず特筆すべきは、この地域に息づく獅子舞の壮大な歴史の深さです。
歴史を紐解くと、福岡藩が元禄元年(1688年)、福岡藩の儒学者・貝原益軒に編纂させた筑前国の地誌である『筑前国続風土記』等にも記録されており筑前の大社・大分(だいぶ)八幡宮にて、養老4年(720年)に放生会が始まったと記されています。実に1300年以上の歴史を誇る古社です。

そして享保9年(1724年)、当時の庄屋が相次ぐ飢饉や災害による村の困窮を救い、人々を元気づけるため村人を京都に上洛させそのメンバーが石清水八幡宮で獅子舞の立ち回りを習得し、享保9年(1724年)に地元の大分八幡宮(だいぶはちまんぐう)の放生会で奉納したのが始まりだそうです。 京都の石清水八幡宮の獅子舞が、江戸時代にその技術が福岡県に伝わり、現在も独自の伝統芸能として息づいている、その源流となったのが、福岡県飯塚市に伝わる「大分(だいぶ)の獅子舞」です

安恒(やすつね)地区の獅子舞もまさにこの大分八幡宮の流れをくんでおり、江戸中期から約300年にわたり脈々と受け継がれてきました。
嘉飯山地区や筑前各地の獅子舞の源流とも言える、格調高く歴史的価値の極めて高い伝統芸能なのです。

椿八幡宮と風土・歴史
安恒地区の獅子舞が奉納される椿八幡宮(飯塚市)周辺は、古来より豊かな田園風景が広がり、五穀豊穣と人々の平和を祈る信仰が深く根付いてきた土地です。
秋のお祭り(おくんち)では、各戸を巡る門付け(かどづけ)を行った後、夕刻に椿八幡宮境内へ集結して神前奉納が行われます。
奉納される祈りは「五穀豊穣」「氏子繁栄」「家内安全・無病息災」。
地域住民の暮らしと神様への感謝が一体となった、温かくも厳かな風土が今も息づいています。

2.  なんと4世代同台!95歳の曾祖父(ひいおじい)様が小太鼓でリードする奇跡

練習会場である安恒公民館の引き戸を開けて、私は目を疑いました。

現在、委員会には約50名のメンバーが在籍されていますが、その中心におられるのは御年95歳の最年長・曾祖父(ひいおじい)様!
しかも、ただ見守っているだけではありません。なんと、合奏の要であり指揮者の役割を果たす「小太鼓」を、今も現役バリバリで、しっかりとしたリズムで叩き、チーム全体を力強くリードされているのです。

さらに驚くべきことに、会場にはその「曾爺様を筆頭に息子様・お孫様・ひ孫様」と、見事な4世代が揃い、ともに音を重ねていらっしゃいました。
95歳の曾爺様が叩く小太鼓のリズムに合わせ、孫やひ孫さん世代の子供たちが笛を吹き、太鼓を打ち鳴らす――。

長年音楽に携わってきた私も、この奇跡のような光景にはただただ脱帽するばかりでした。

3. 福岡各地の和太鼓チームとの比較

~「民舞・お囃子」がもたらす心の原風景~

近年、福岡県内や全国で活動する多くの和太鼓チームは、ダイナミックで現代的なアンサンブルや魅せるパフォーマンスを中心とした「創作和太鼓」のスタイルが多く見られます。
しかし、この安恒自治会獅子舞委員会のみなさんが守り続けているのは、地元に代々伝わる「民舞・お囃子・神事」の演奏なのです。
今回、一番感銘を受けたのは、下は小学1年生から上は95歳まで、老若男女が一堂に会し、同じ目線で伝統の音色を創り出している姿でした。
使用される楽器は、大太鼓・小太鼓・横笛・銅拍子(どうびょうし)。
本番では竿に太鼓を吊るして行列を組み、打ち手が歩きながら打ち鳴らし、神社へと練り歩きます。

童心に帰る懐かしい音色

昔どこかで耳にしたような祭り笛の音と、ウキウキするような太鼓のリズム。かつてのお祭りの記憶が蘇り、私自身が完全に童心に帰ってしまうような心地よさがありました。

次世代への確かなバトン

お祭りの原風景を知らない現代の子供たちが、大人やおじいちゃんたちと一緒に実に楽しそうに笛を吹き、太鼓を叩いている。
この姿がある限り、地域の伝統は決して途絶えることなく未来へ続いていくと確信し、頼もしさと胸が熱くなるような喜びがこみ上げてきました。

核家族化が進み地域コミュニティの希薄化が叫ばれる現代日本において、これこそが「地域住民の繋がりと結束」を取り戻し、文化を守り続ける最高の原動力なのではないでしょうか。「日本もまだまだ捨てたものじゃない!」と深く感動いたしました。

4. 安恒の獅子舞のストーリーと「伝統を守る」ということ

安恒地区の獅子舞の特徴は、物語性豊かな舞のストーリーにあります。
「雄獅子と雌獅子が出会い、お見合いをして恋に落ち、最後は恋に狂って乱舞する」という、実に人間味あふれるドラマチックな演出仕立てになっています。
獅子頭、岡松正秀氏を筆頭に獅子舞役である舞い方の手により舞われる獅子の動きは愛嬌と迫力に満ちており、見る者を惹きつけます。
雌雄2頭の獅子(※オス・メスの区別をつけないとする説もあります)が一対となり、笛、大太鼓、小太鼓、鐘方(銅拍子)の囃子の緩急に合わせて舞います。「ヒヤ(出会い)」「ナカ(見合い)」「ノリ(じゃれ合い)」の3つの場面で構成されており、獅子が出会って恋に落ちる様子を優雅かつ大胆に表現します。なんとロマンスあふれるストーリーでしょう。
この大分の獅子舞は、筑前・筑豊地方における多くの獅子舞の源流になったとされており、その歴史的価値から福岡県指定無形民俗文化財に登録されているそうです。

木谷慶一が考える「伝統芸能の継承」

今回の訪問を通じ、「伝統を守る」ということの本質を改めて考えさせられました。
伝統を守るとは、単に昔の形をそのままコピーして引き継ぐことだけではありません。

「残すべき大切な心や技術の芯(根幹)はしっかりと継承しながらも、時代や集う人々に合わせてしなやかに変化・進化していくこと」ではないでしょうか?

小学生から95歳までの4世代が笑顔で混ざり合い、時代の空気を取り入れながら楽しく奏でる安恒の皆さんの姿の中にこそ、伝統芸能が何百年も生き続ける「本当の秘訣」があるのだと実感いたしました。

【取材後記】

おじいちゃん、おばあちゃん、若者、そして子どもたちが、まるで童心を分かち合うように笛を吹き、太鼓を叩き、舞い踊る――。

安恒公民館に響き渡るあたたかい音色は、まさに地域の絆そのものでした。
安恒自治会獅子舞委員会の皆様、素晴らしい練習風景を見せていただき、本当にありがとうございました!
秋の奉納本番での勇壮な舞を心より楽しみにしております。

追伸:写真でもお分かりのようにしょうけ(竹で編んだザル)をもって舞っているのは五穀豊穣の収穫の表現かなと思っていましたが本番ではしょうけではなく獅子頭と獅子の衣装を着て舞うための練習方法だそうです。練習の時だけ獅子頭の代わりにしょうけをもって練習しているとのことでした。失礼いたしました(笑)

練習終了後、酒瓶とつまみがたくさん出てきました。
「いいな~」と思いつつ、後ろ髪を引かれる想いで一人寂しく練習会場を後に、それこそショウケ峠を越えて自宅に帰りました・・・。

安恒地区奉納本番スケジュール:
10月10日(土曜日)17:30~安恒公民館出発
10月11日(日曜日)13:30~安恒地内出発
椿八幡宮奉納本番スケジュール
10月11日(日曜日)18:00~安恒公民館出発
*皆様是非お出かけください

ぶらり訪問記筆者:木谷慶一