「祇園太鼓保存会 東二島白鼓会」の練習会場訪問

【ぶらり訪問記】お祭り編
揺れる「すだれ」と山車(だし)底の「根性」

西日本楽器 和太鼓事業部の木谷慶一です。

各地の伝統芸能を訪ねその熱気と魂を伝える、お祭り編「ぶらり訪問記」。

今回は北九州市若松区の夏の風物詩、「祇園太鼓保存会 東二島白鼓会」の練習会場へ、そしてその魂が宿る「日吉神社」へも足を運びました。

■「二つの島」から始まった聖地の物語

この「二島」という地名の由来はかつてここ洞海湾に「本島(ほんじま)」と「沖島(おきじま)」という二つの無人島があり、合わせて「二児島(ふたごじま)」と呼ばれていたそうです。
昭和の埋め立てにより島としての姿は失われましたが、その魂は今もこの地に鎮座する「日吉神社」へと引き継がれています。

■目を引く「すだれ」と人形山笠の美学

東二島山笠の見どころの一つは、山笠の四方から鮮やかに垂れ下がる「すだれ」も大きな魅力です。山笠が「がぶり(激しく揺らす)」や「練り回し(回転させる)」の動きを見せるたび、この「すだれ」が波打つように舞い、人形山笠の華やかさを一層引き立て、祭りの躍動感を視覚的に表現しています。

■「山笠の底」は、まさに戦場

東二島山笠では、山車の底に「太鼓」、中段に「鉦」、側面に囃し方「笛」が乗り込んで演奏するスタイルですが、その「底」にある狭いスペースに2人の打ち手、中段に交代の打ち手が待機し、日中から夜まで絶え間なく叩き続けるのです。
交代制とはいえ、一度出番が来れば3時間以上、ノンストップで叩き続けるといいます。
しかも、ただ叩くだけではありません。山笠が激しく上下に揺れる「がぶり」や、猛烈なスピードで回転する「練り回し」の最中も、太鼓の打ち手や上段に位置する笛方たちは振り落とされないよう足で踏ん張りながら笛を吹き、リズムを刻み続けていきます。

■「長崎のような」地形が生んだテンポアップの秘密

この地区は、かなりアップダウンが激しく、道幅も狭いし、まるで長崎のような地形をしています。この地形こそが、東二島山笠の太鼓のもう一つの大きな特徴である、急激なテンポアップの理由でした。
途中で急に太鼓のリズムが早くなる理由を代表に尋ねると、「急激な坂道などで曳き手たちを鼓舞するためのもの」であり、この早くなったリズムを聴いて曳き手たちの気持ちを高揚させて力付けるのだそうです。

重い山笠を曳いて急坂を駆け上がる、その限界の瞬間に打ち手が送る音のエールなのです。
それは単なる演奏を超え祭りを動かすエネルギーそのものだと強く感じました。

▲囃子のテンポの違いをお聞きください

■主役を引き立てる「最高の脇役」としての誇り

ここで、同じ北九州の「小倉祇園太鼓」と比較すると、その違いが鮮明になります。
小倉祇園太鼓は太鼓そのものが主役ですが、ここ東二島の主役はあくまで「山笠(山車)」です。
太鼓、笛、そして鉦。これらの鳴り物は、山笠を曳く「曳き手」たちを鼓舞し、その足を一歩前へ進めるためのエネルギー。いわば「燃料」なのです。
「自分たちは脇役。だけど、自分たちの音が止まれば山は止まる」。そんな誇り高き脇役たちの魂が、あの重厚な響きを作っているのだと実感しました。

■今回練習を間近に見せて頂いたときに「えっ?」と感じたことがありました。

それをお話しするにはここで小倉祇園太鼓のことを少しお伝えしなければなりません。
あの全国的にも有名な小倉祇園太鼓はご存じのように両面打ちの太鼓です。両面打ちの太鼓は全国的にも非常に珍しいものです。


片面の皮を高い音を出すために強く張ります。これを「カン」と言います。
太鼓で言う第一旋律(主旋律)を奏でます。
もう一方の片面を低音が出るように少し緩めに皮を張ります。これを「ドロ」と言います。この低いほうの面で地打ち(伴奏)を担当します。

若い方のためにわかりやすくエレキバンドに例えてお話をしてみます。

 ①バンドの中のリードギターは通常メロディーを演奏します。
 ②そしてリズムギター(サイドギター)は伴奏リズムを演奏します。
太鼓ではリードギターの役目を「カン」が担当します。

そしてリズムギター(サイドギター)の役目をドロが担当します。
(*リズムしか出ない太鼓でもこのように主奏と伴奏とちゃんとあるんですよ)

小倉と東二島の「役割の逆転」

小倉祇園太鼓は、1台の太鼓の両面(高い音の「カン」と低い音の「ドロ」)で打ち分けます。これは太鼓が主役である小倉祇園太鼓ならではのことで一台の太鼓を2名の打ち手で自由に動いて立って叩きます。
しかし山笠の山車の中では狭過ぎて1台の太鼓を立って叩くことなんかはできませんし、優雅なスタイルで叩くこともできません。
だから東二島のような山車の中で叩く場合は高い音が出る「小太鼓」と低い音が出る「大太鼓(長胴)」の2台構成をとるのです。

<小倉祇園太鼓の流れを汲んだ東二島祇園太鼓なのに>
東二島祇園太鼓は叩くパートが全く逆でした。
伴奏であるべき低い音の長胴太鼓が、高い音の小太鼓の地打ちのリズムに合わせて「ドン、ドコドン」と力強く、かつ技巧的なフレーズを叩き込み始めました。

一瞬「えっ?」

低音がメロディライン(主奏)を受け持っているため、聴感上、一般的な和太鼓や小倉のスタイルとは逆の構成で聞こえてきました。
地打ちは低い音(ドロ)」という常識がある中で、東二島はあえて「高い音(カン)でリズムを支え、低い音(ドロ)で魅せる」という独特の美学を進化させてきたのでした。

小倉から伝わった太鼓が若松の地に根付く際、地元の風土や環境に合わせて、より力強く、より腹に響く音を強調する独自の形式を選んだのだと思います。
これが独自の進化を遂げた若松スタイルなのです。
この「逆転の構造」こそが、東二島祇園太鼓が他の地域と一線を画す、最大の特徴であり、またこの「高音の安定感」と「低音の躍動感」、この対比が、東二島祇園太鼓の最大のプライドでもあるのではと感じました。

■次世代へ繋ぐ「魂のバトン」

今回の取材中、心温まる、そして心強い光景に出会いました。小学2年生と3年生の男の子が、体験入会に訪れていたのです。
小さな手でバチを握り、先輩の音に真剣に耳を傾ける姿。その瞳には、すでに祭りの熱気が宿っているようでした。
彼らが数年後、山車の中で逞しく太鼓を打ち鳴らす姿が今から目に浮かぶようです。

◆最後に代表の上之治孝氏にお話をお聞きした時に、小太鼓をもっと高い音を醸し出す締太鼓を使ってやってみたいとのお話がありました。
大太鼓のパートは今まで通りの長胴太鼓を使い、小太鼓についてはもう一型小さめの締太鼓を使って演奏してみたいとの構想を熱く語っておられました。
私はこの考えには大賛成なのです。あの狭い山車の中では長胴太鼓よりはるかに小型で高い音が出る締太鼓はぴったりです。

理由としては
①小太鼓のパートのリズムは音楽を奏でるという役目より山車の曳手を鼓舞するための指揮者としての要素のほうが大きい。

②特に外での演奏なので長胴太鼓の音よりも甲高い締太鼓のほうがはっきりと囃子手や曳手にも響く。

高い音(カン)が「地打ち」として一定のリズムを刻む、この「カン」の音がメトロノームのように高らかに鳴り響くことで、低い音で自由に動き回る「ドロ(主奏)」のリズムが更に際立つはずです。
この考えはとても理にかなっています。

<テンポアップする時の合図である最初の4拍! >

さぁ~テンポを上げるぞ!  俺についてこい!

ドンドンドンドン タンタ、タンタ、タンタ、タンタが鳴り響く地打ちのリズム、これに加わるドロの主奏、そして笛の音、昔聴いた懐かしいお祭りのお囃子、体にずんずん響いてきて見学している私でさえ体が弾んで鼓舞されてしまいました。

【木谷の独り言】

練習を拝見し、改めて和太鼓の「役割」の深さを感じました。

主役として拍手を浴びる太鼓もこれまた素晴らしいものがあります。
また、祭りの熱源となる東二島の太鼓のように脇役でも泥臭くも格好いい魅力が詰まっている太鼓もあります。

あの狭い山車の中で3時間叩き続ける精神力、そして坂道で曳き手を鼓舞するテンポアップの知恵。
西日本楽器としても、そんな過酷な環境に耐えうる最高の道具を提供し続けなければと、背筋が伸びる思いで練習会場を後にしました。
*今日の3時間にも及ぶ練習で私の身体は完全に鼓舞されてしまった。

頭の中にはタンタ、タンタ、タンタ、タンタのリズムが飛び跳ねている。

これでついついスピードアップしてしまったら事故になると真剣に思ってしまった。気を付けて運転して帰ろう。
若松東二島山笠保存会の皆様、魂を揺さぶる体験をありがとうございました!

(ぶらり訪問記筆者:西日本楽器 和太鼓事業部 木谷慶一)

▼2026年の東二島祇園山笠のご案内

祇園太鼓保存会 東二島白鼓会のサイト
https://sites.google.com/view/higashifutajimagion85/

東二島山笠運営委員会のサイト
https://sites.google.com/view/higashifutajima-gionyamakasa