西日本楽器 和太鼓事業部の木谷慶一です。和太鼓チームの情熱を伝える「ぶらり訪問記」。
今回は、佐賀市の北部に位置する自然豊かな富士町で、長年活動を続けている「富士太鼓」の練習にお邪魔してきました。
【ぶらり訪問記】No.036 伝統と情熱を次世代へ
~富士町で響く「富士太鼓」の鼓動~

佐賀市の北部に位置する富士町。ここは古くから「古湯・熊の川温泉」の湯治場として知られ、背振山系の深い緑と清流・嘉瀬川が織りなす、まさに「佐賀の奥座敷」と呼ぶにふさわしい風光明媚なところです。
かつては長崎街道から小倉へと続く山越えの要所でもあり、厳しい自然と共に歩んできた人々の力強さと、温かな人情が今も息づいている場所です。
そんな歴史ある富士町で、四半世紀近くにわたり太鼓の音を響かせているのが、今回ご紹介する「富士太鼓」の皆さんです。
現在、地元を中心とした毎年開催される「古湯温泉花火大会」や「富士町ふれあい祭り」などで披露されています。そのほか施設や教育機関へのボランティア活動などを行っており、地域に根付き、地域に貢献している創作太鼓チームです。
<地域の拠点、南部コミュニティセンター>
今日は練習会場である「佐賀市立 南部コミュニティセンター」に足を運びました。ここは地域住民の交流の場として管理されており、太鼓のような力強い音を出す活動にも理解のある、富士町の文化振興を支える大切な拠点です。窓の外に広がる山々を背景に、もうすぐ稽古の準備が始まります。
楽器の保管もこの南部コミュニティセンターに保管させて頂いているとのこと、すぐに機材の出し入れができるので、毎回別の場所から車で移動して運んでくるチームにとっては、とてもうらやましいことでありいかに地元の方の力入れが大きいかがよくわかり、とてもありがたいことだなと感じました。
機材も2尺の長胴大太鼓、そして1尺5寸の長胴太鼓、桶胴太鼓、締太鼓、平胴太鼓と、とても立派な太鼓がそろっていました。
<指導者の情熱と、受け継がれる2000年からの歴史>
「富士太鼓」の創立は2000年。実に25年以上の歴史を誇ります。
この長い年月において代々の代表の方々が、チームの屋台骨を支えてこられて、現在代表を務めておられるのが、代表兼指導者の音成隆(おとなり たかし)氏です。 音成氏は、地元で小学校の校長先生も務められた教育の大先輩。現在は奥様と共に二人三脚で、子どもたちの指導にあたられておられます。
和太鼓チームを四半世紀も維持し続けることは、並大抵の努力ではできません。そこにあるのは、単なる技術の伝承だけでなく、地域の「宝」である青少年の育成に対する並外れた情熱と、無私のボランティア精神です。
音成氏の温かい眼差しの中にも、教育者としての芯の強さが感じられ、このチームが地域で愛され続けている理由がすぐに感じ取れました。
活気あふれる練習風景

16時30分を過ぎると、徐々にメンバーが集まってきました。
現在は小学3年生から高校生まで、計7名の子供たちが在籍しています。年齢差はありますが、大きな子が小さな子の面倒を見るというまるで家族のようなアットホームな雰囲気が印象的でした。
17時になると元気な掛け声と共に練習がスタート!
まずは会場内をランニングし、15分ほどかけて入念に体をほぐしながら準備体操が始まりました。
挨拶の場面では、私に対しても全員からハツラツとした歓迎の声をいただき、その礼儀正しさに背筋が伸びる思いでした。
さっそく練習開始!練習は基礎打ちから始まりました。
先生の叩く鉄筒のリズムに合わせ、基礎を徹底的に叩き込みます。
特に基本の打ち方の動作を重点に意識させ、併せて音楽的なリズムの強弱を体で感じ取らせようとする練習メニューが組まれており、音成先生の論理的で丁寧な指導法がうかがえました。


しかしこのようなチームが必ず抱える指導者泣かせの大きな問題点があります。それはメンバーの年齢差がかなり大きいため、経験豊かな子供と、まだ経験が少ない子供との技量の較差をどう埋めていくかという事ですが、その差の穴埋めは先輩のお兄ちゃん、お姉ちゃんたちがしっかりと指導しており、年齢層がとても広いにもかかわらず一つにまとまっている。心配なんか何のその、すごいパワーとチームワークと組織力でした。
17時45分からは、いよいよ曲の練習が始まりました。
若さ溢れる打ち込みには目を見張るものがありましたが、少し気になるところが何点かありましたので、さらなる成長への期待を込めて、あえていくつかアドバイスをさせて頂きます。
まずは音のバランスについてです。大太鼓・中太鼓・小太鼓の各パートが個々に頑張っている印象はありましたが、あくまでもアンサンブル(合奏)であるため、もう少し互いの音を聞き合い、アンサンブルとしての調和を意識すると、一本調子の曲の演奏ではなく動と静、強と弱の変化が現れもっと良くなると思います。


特に指揮者の役割を担う「締太鼓」の地打ちを、耳だけでなく動作でもしっかり捉えることができれば、テンポの崩れやズレも解消され、全体の安定感が格段に増します。
また、繊細な表現である「ピアニッシモ(pp)」の安定も今後の課題です。
さらなる高みを目指して
もう一つ気になったのは、技術面での「基礎の微調整」です。
まずは自分の体に合ったバチの長さ、太さを選ぶことが重要です。
それに握り方も不安定な場面が見受けられました。
また、リズムの「頭」は捉えられているものの、フレーズとしての「小節の頭」をより意識できるようになると、演奏全体に生きたリズムが甦り、厚みや深みを醸し出してもっともっとよくなってきます。
そのためにはバチの材質選びやバチの握り方(グリップ)をしっかり学びましょう。バチは、和太鼓の音色や上達スピードを左右する非常に重要なポイントです。
富士町の豊かな自然のように、もっともっと「いい音」を響かせるための3つの秘訣をお伝えします。
1. 「遊び」を作る
一番多いNGは、バチを手のひら全体でギュッと握りしめてしまうことです。
これでは手首の可動域が狭まり、せっかくの太鼓の皮からの跳ね返り(リバウンド)を殺してしまいます。また音も硬くなってしまいます。
ポイント: 手のひらの中に小さな空間を作るくらいの余裕を持たせてみてください。
効果: 余計な力が抜け(脱力)、太鼓の皮の跳ね返り(リバウンド)を活かせるようになります。
2. 「支点」を親指と人差し指に置く
バチをコントロールする中心(支点)を明確にします。
ポイント: 親指と人差し指の付け根あたりでバチを軽く挟み、残りの3本の指は添える程度にします。
3. 小指を遊ばせない
小指がバチに掛かっていることで、振り下ろした瞬間にバチを止め、音を「締める」ことができます。
効果: 小指が機能すると、ピアニッシモ(pp)などの繊細な音量コントロールが格段に安定します。
木谷の独り言
「バチは『握る』んじゃなくて『支える』ものだよ。太鼓と喧嘩しないで、バチが自由に踊れるように優しく持ってあげよう!」
訪問を終えて
富士町の豊かな自然の中で、音成先生ご夫妻の愛情を受けながら撥を振る子どもたち。彼らの姿は、まさに町の希望そのものです。
25年の歴史を背負いつつ、新しい技術も取り入れながら進化を続ける「富士太鼓」。
今回の訪問で、私もたくさんのエネルギーをいただきました。練習後の子供たちの清々しい表情を見ていると、これからさらに洗練された演奏を聴かせてくれるに違いないと確信しました。
このチームに芽生えているものは音楽や太鼓テクニックの上達だけを目指すものではなく和太鼓を通して、人としての心の豊かさ、そして感謝の気持ちや礼儀作法を身に着け、次世代を担うべく良き社会人に育ってほしいという願いを念頭において指導に当たっておられるのだという思いを強く感じました。
富士太鼓の皆さん、音成先生ご夫妻、ご父兄の皆様、温かく迎えていただき本当にありがとうございました!
これからも西日本楽器 和太鼓事業部は、皆さんの情熱を全力で応援していきます!
もう少し車で上っていくと、あの自然の素晴らしい環境の中に「古湯・熊の川温泉」があるのに、このまま帰らなければならない無念さ。
後ろ髪を引かれる思いで練習会場を後にした。~温泉に入りたかった~
ぶらり訪問記 筆者:木谷慶一
<チームデータ>
富士太鼓
創立:2000年
拠点:南部コミュニティセンター(佐賀市富士町)
分類:創作和太鼓チーム
団員数:現在7名
代表兼指導者:音成 隆
練習日時: 毎週水曜・土曜 17:00~18:30
メンバー: 小学3年生~高校生(現在7名)
