ぶらり訪問記 No.029
訪問先:竹下太鼓振興会

今回は福岡市博多区竹下を拠点として幅広く活動をしている竹下太鼓振興会を訪問した。
このチームの創立は、なんと1988年(昭和63年)、今年で創立37年目を迎える、私設の和太鼓チームとしては非常に長い歴史のあるチームであり、福岡での創作和太鼓の先駆者的存在のチームでもある。
竹下太鼓[TAKESHITA DAIKO]は福岡市博多区竹下周辺地域の町おこしのために昭和63年に地元竹下の商店街の女性たちが創立した創作太鼓で、地域文化の向上を目指し 、竹下周辺の歴史、自然、文化をテーマとした演奏活動を長きにわたり展開しており、結成以来37年間、老若男女の年齢差を超えて一緒に太鼓を打つという姿勢は結成当時から全く変わっていないとのこと。
現在団員は老若男女合わせて34名。地域の祭りやイベント、施設訪問、学校のイベント等に参加し、地域の活性化と青少年の育成活動を積極的に行い、子供たちからお年寄りまでの幅広い人々と交流を行っており、まさに地域を愛し、地域に根付き、地域に貢献する太鼓グループである。
練習会場は、竹下の子どもたちが通う那珂小学校の体育館にて毎週木曜日の19時から21時まで行われている。
組織のユニットは大きく分けて、幼児から高校生までを対象としたジュニアチーム「一輝」、大人を中心とした「音那組」、そして、指導者レベルの中級・上級者を対象とした「鼓桜」に分かれており、レベルが上がっても長く続けられる体制が整っている。
私が練習会場に到着すると、すでに創立者代表の古川ひろ子氏がお見えになられていたので、ご挨拶をさせて頂き徐々にメンバーの方たちも集まって来られ、どこのだれだか、わからない私と顔を合わせても、大きな声で挨拶をしてくれて、とてもすがすがしい気持ちにさせてくれた。
しばらくすると今度は太鼓を積んだ車両が到着。なんと竹下太鼓専用の運搬車両だった。


さっそく太鼓の搬入の準備が始まったが、この練習会場は小学校の体育館ではあるが、ここの体育館はなんと2階に造られており、毎回2Fへの太鼓の搬入・搬出を行っているとのこと。
毎回の搬入・搬出においては結構な重労働であるが、副会長笑いながら曰く、「準備体操と思えば大したことではないですよ」とのこと。
会場には使用時間の19時までは入れないため入り口近くで待機。そして時間になると一斉に運び込みとセッティングが始まった。
太鼓の運び入れを見ていると、その充実した機材の種類や数に驚かされた。
3尺4寸の大平太鼓1台、3尺8寸の大桶胴太鼓が2台、そしてたくさんの長胴太鼓、桶胴太鼓、締太鼓、竹太鼓、ちゃっぱ、神楽鈴等々、とにかくほとんどの和太鼓類が揃っている。うらやましい機材であった。


運び込みが終わると早速、桶胴太鼓などの皮のチューニングが始まった。
練習終了後も担ぎ桶のロープを1台1台緩めて保管し、また次回練習前に締めなおすということを毎回行っているとのこと。
太鼓を大切に扱いまた太鼓の張り具合も常に使用者が把握するという当たり前のことであり、またとても重要なことではあるのだが果たしてここまで行っているチームがどのくらいあるのであろうか。
打楽器奏者としてはごく当たり前のことであり、とても重要なことではあるのだが、私は今までにまだ数チームにしか出会ったことがない。
この状況だけを見ても管理者や指導者のチームに対する姿勢が感じられる。
しかし分かっていても時間の問題や会場の問題、チームの様々な問題で実行したくても、できないチームが多いことも事実である。
準備とセッティングが終わると早速、準備体操が始まった。
まずは体をほぐしてから~とても大事なことである。

そのあと全員で「竹下太鼓団員の心構え」の唱和が行われた。(この内容は後半でお伝えしたい)
全員で団員の心構えを唱和して気持ちを高め精神を整えたあと基本打ちが始まった。
リズムの正確さ、チームワークの大切さに力を入れた基本打ちであった。普段どのチームも基本打ちのリズムを聴かせてもらうと、そのチームの力量と将来性がすぐに分かるがこのチームの叩く基本リズムは理屈抜きにして「本来リズムが持つ根源」をしっかりと理解しておりアクセントの位置などリズムの自然体を知った生きたリズムを叩いている。
生きたリズムを理屈抜きで何回も何回もとにかく繰り返しの練習で体に叩き込んでいる。難しいリズムを叩いてテクニックレベルを上げていくことも、とても大事なことだとは思うが、そのチームの年齢層や力量に合わせて、無理な背伸びはせず、簡単なリズムでも「本来リズムが持つ基本を」をしっかりと理解し、アクセントの位置などリズムの持つ自然体を知れば生きたリズムを打つことができるようになり、とてもいい演奏ができるようになる。

このチームの指導者たちは、このことをしっかり理解させようとしているところが随所に現れていた。
準備体操からこの基本打ちまでもうすでに1時間以上が経過している。
毎回約1時間以上の時間をこの訓練に費やしているとのこと。練習時間の半分以上を基本打ちに費やしているチームはそうざらにはないし、あまりお目にかかったことはない。
難しいリズムを叩いてテクニックレベルを上げていくことも、大事なことだとは思うが、そのチームの年齢層や力量に合わせて、無理な背伸びはせず、簡単なリズムでも「本来リズムが持つ基本を」をしっかりと理解し、アクセントの位置など、リズムの持つ自然体を知れば、しっかりとした生きたリズムを打つことができるようになり、観客の心を打つようなとてもいい演奏が必ずできるようになる。
~木谷の独り言~
今までにたくさんのチームを見学させて頂いたが、団員が減少して廃止寸前にまで追い込まれているチームや、また逆に団員がどんどん増えているチームもある。理由を探っていってみると一つの共通した課題が見えてきた。
それは組織力である。
どんなに素晴らしい指導者がいても、どんなに素晴らしいリーダーがいても一人ですべてを行うには限度がある。リーダーだけでは何にもできない。少人数であろうと大人数のチームであろうとチームを長きにわたり指導しながら、まとめていくことはとてつもなく大変なことであり至難の業である。
やはり団員の自覚、保護者の協力、地元住民の協力など様々な応援体制がなくしてはとても難しい。
リーダーひとりだけがすべてを行わなければならないようなチームの実情ではなかなか無理がある。しかし出来ないでは進歩もないしチームの長きにわたる存続も危うくなる。
リーダーにすべてを任せている「おんぶに抱っこ」のチームではなかなか進歩が望めない。やはりメンバー・保護者・地元有志の方々、市政の協力など様々なところからの協力がないと難しい問題がある。
この竹下太鼓のチームの素晴らしさはなんといっても組織力が根底にある。
常に次の時代に継承していくことを考えている。素晴らしいことである。
ここでその組織力の内容の一部をご紹介したい。
トップに執行部としての役員会があり、その下に運営を司る運営部と指導と演奏活動を中心とした活動部に分かれており、子供たちを安全に見守りながら支えるサポート体制がしっかりと出来上がっている。素晴らしい組織力である。
竹下太鼓振興会会則という、しっかりとしたルールを作りみんながこの会則をもとに運営を行っている。だからこそ地元住民や保護者からでも信頼されているのであり絶大なる応援があるのだとつくづく実感した。
このようなしっかりとした組織力とチームワークが土台としてあるからこそ、おのずとテクニック面での上達や、いい演奏がついてくるのである。

もう一つ特に感じたことはテクニックや技術面だけではなく日本に長くから伝わる伝統文化の和太鼓を通じて”人間としてどうあるべきか”を太鼓道の教えをもって行っていることもこのチームの大きな特徴であると随所で感じさせられた。
このことは竹下太鼓団員の心構えにも記されていた。
その心構えの中の一部分を抜粋してみた。
礼儀・輪・自己鍛錬・地域貢献をスローガンに
- 元気に挨拶しよう(さらに細かく5項目記されている)
- 準備や後片づけはすすんでやろう(さらに細かく17項目記されている)
- 楽器を大切にあつかおう(さらに細かく8項目記されている)
~さらに輪を大切に~自分の力を最大限にいかそう~ボランティア精神をもとう~など事細かに心構えが記されている。
テクニック面だけを追いかけるのではなく、将来を担う若者の人間形成をも考えた確固たる指導体制が確立されているからこそ大所帯の団員数と37年という長きにわたっての活動、そして観客の心に届く素晴らしい演奏ができるのだと改めて感じた。
会長から一言
私たち竹下太鼓振興会は、地域の行事や祭り、病院・福祉施設・各種団体の催し、県内外の和太鼓フェスティバル、海外との文化交流事業など、演奏活動は年間30回を超え、町の親善大使としての役割も果たして います。
様々な演奏活動を通して技術を磨き、地域に根付いた団体でありたいと思います。また、今後も和太鼓を通して礼節、輪、自己鍛錬を重んじ青少年育成に寄与していきたいと考えています。
竹下太鼓振興会 会長:中西辰也
このチームのメンバーは今からも、これから先もずっとこの竹下太鼓で培ってきたチームワークを大切にしながら音楽レベルの向上だけではなく人間としての心の豊かさをも身に着ける良き社会人として、そして地域のリーダーとして育っていくに違いない。このチームには学ぶことがたくさんあった。
このチームの今後ますますの発展と活躍を心より期待したい。
~追伸~
最後に一言~あまりにも暑かった。いや熱かった。窓は閉め切られ黒いカーテンでふさがれている。
周りの住民に対する音の問題であろう。
何もせず取材見学をしているだけの私でもプールに飛び込んだように汗でびしょびしょ。
演奏者は同じ環境の中で全力で太鼓を打ち続けている。途中で体調を崩して退室したメンバーもいた。
副会長の西氏が地獄の練習場なので覚悟してきてくださいとおっしゃっていたのがよく分かった。地獄でした(笑)
帰りにも一言、次回は冬の極寒地獄にもぜひお越しくださいとのこと・・・・
ぶらり訪問記筆者:木谷慶一
<チームデータ>
創立:1988年(昭和63年)
拠点:福岡市博多区竹下
分類:創作和太鼓チーム
団員数:現在34名
創立者代表:古川ひろ子 会長:中西辰也 副会長:西康信 川原和夏